あれは忘れもしない1994年の5月、GWに九州にツーリングに出た時の出来事。 まだツーリングを始めて間もなく、キャンプの経験も乏しい頃だった。 |
大阪南港発のフェリーでバイク(セロー225W)と共に別府に降り立ち国道10号線を南下。 日南海岸を通って都井岬,佐多岬と海岸沿いを南へと順調な旅をしていた。 桜島を訪れた後は進路を北へと取り、霧島,えびの高原を抜けて 九州ツーリングのメインとも言えるやまなみハイウェイを北上する。 阿蘇の山々を望むこの道路はアップダウンもあって、なかなか豪快なルートだ。 |
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雄大な阿蘇の風景に圧倒されっぱなしだったが、ふと空を見上げると雲行きがあやしそうだ。 昼飯を取った食堂で天気予報をチェックしてみると、午後から雨が降るとの情報が.....。 キャンプツーリングで何度か雨に会った経験もあったので、 今考えれば少々甘く考えていたと思う。 |
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何だか雲行きがあやしくなって来たぞ。 |
雨を感じて早めのテント設営。 この判断が間違いだった...。 |
雨の中でのテント設営はかなり厄介なので 「ちょっと早めに張ってみるか。」
と 午後3時過ぎに、キャンプ場では無いと思われる人気の無い広場にテントを設営。 テントを張っていると早速小雨がぱらぱらと降り出した。 ・ ・ 空が暗くなって来た。 雨はそれ程では無いが、風が段々と・・・ いや、かなり強くなってきたぞ。 大丈夫かなぁ.....。 うあぁっ! |
ペグを適当にしか打っていなかったので強風でテントが飛ばされそうになる。
これはやばい。 当時使っていたのはロゴスのドーム型テント。 ホームセンターで買った\3,980の代物だ。 外に出てペグを打ち直すが、樹脂製(カーボン製?)のポールがきしんでいるのが分かる。 フライシートがあるとテントごと飛ばされそうな気がしたので、急いでフライシートを外す。 これでまあ大丈夫だろう。 たっ、多分・・・。 今度はペグをしっかりと打ったのでテントは一応安定している。 雨のテント内では何もする事がないので、かなり早いが寝る事にする。 「目が覚めたら、晴れてるだろう。」 と、不安から逃げる様にして寝袋へ。 1週間に渡るロングツーリングの疲れも手伝って心地良い眠りへと落ちて行く。 ・ ・ ・ 左のほっぺたを何か冷たくて、それでいて薄い物が触れる感覚で目が覚めた。 何だろうこの感触? 雨と風の音も聞こえるぞ。 まるで濡れた雨傘を押し当てられて いる様な感じ。 確かテントの中で寝ていたはずだから、だとしたらテントの壁...?? げっ! テントがひしゃげてるぞ! |
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いつもの状態 | 只今の状態。 |
目を凝らして驚いた。 強風に押されてドーム型のテントが変形していてドームになっていない! ポールはかろうじて折れていないがギシギシときしんでいて、今にも折れそうだ。 円弧を描くはずの居住空間は押しつぶされて完全にペシャンコ。 そいつが顔まで来ている。 これはかなりやばい。 大慌てで起き上がってテントの真ん中に座り、左右の手を大きく広げて、 両手でテントをドームの形に押し戻す。 押さえていないと潰されそうだ。 強い風と雨は容赦なく吹きつけ、強さを増し、テントを押し潰そうとする。 両手で必至にテントを押さえて耐える。 上げたままの腕がだるいが そんな弱音を吐いている状況ではない。 いったい何時間こうやってテントを押さえ続けなければならないのだろう・・・? ・ ・ ・ ・ 30分、1時間、2時間 ・・・。 死闘はまだまだ続く。 両腕がだるい・・・。 けれどもテントを押さえ続けなければ負けてしまう。 眠い・・・。 睡魔が手招きをしている。 ついうとうととして腕の力を抜くとたちまちテントが潰されそうになる |
腕のだるさと睡魔との闘い。 極限状態で、頭の中の思考は変な方向に向かっている。 俺はここで何をしているんだろう? ここで腕を下ろしたら楽だろうなぁ。 ここで眠れたら楽だろうなぁ。 そしたらどうなるのかなぁ。 テントは吹き飛ばされて、大怪我とか下手したら死ぬのかもなぁ。 そしたら新聞に載るかなぁ。 「無謀なキャンパー死亡」 とか。 かっこ悪いよなぁ。 キャンパーとして恥ずかしいよなぁ。 家族は泣く・・・いや、いい笑い者だよなぁ。 それだけは絶対に い・や・だ ! 自分自身とも闘いながら両手を大きく広げたままの状態で、うたた寝と起き上がりを繰り返す。 ただ一つだけ心に残っている希望の光。 それは 明けない夜はない。 絶対に朝は来る!! ・ ・ ・ ・ ・ 意識がもうろうとしている。 いったい何時間たったのだろう。 風が少し和らぎ、テントの外が幾分明るくなったような気がした所で 意識が遠のき、そのまま深い眠りに落ちて行った。 ・ ・ ・ ・ ・ |
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何とか生きて帰れたよ。 |
何とか生きのびれた . . . 。 朝になってあの強かった雨と風は跡形も無くなっていた。 朝の澄んだ空気を 胸いっぱいに吸い込むと、昨夜の出来事が全部夢だった様な気がする。 でも現実だと実感出来る。 両腕の痛み、一晩中テントを押さえていたこの痛みは本物だ。 帰りのフェリーの大浴場の中で腕の痛みを揉みほぐしながら、無事だった事に感謝した。 今になって改めて天気図を検索してみたが、最初にあるひまわりの画像の様に 実際には台風ではなくて大型低気圧の様だったが、この時の経験は僕の心に強烈残った。 明けない夜はない。 それと 出来ればかっこ悪い死に方はしたくない。 見栄っ張りだからね。 (笑) |